佐藤美咲








「毎日しっかり食べているのに、疲れが取れない」
「午後になると集中力がガクッと落ちる」
「些細なことでイライラしてしまう」
こんな経験はありませんか?
実は、これらの症状の裏には鉄・ビタミンB群・マグネシウムという3つの栄養素の不足が隠れていることが少なくありません。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」でも、これらの栄養素は「摂取不足の回避」が重要目的として位置づけられています。
この記事では、慢性疲労を生み出す栄養素不足のメカニズムを科学的根拠とともに解説し、今日からできる具体的な対策をお伝えします。
慢性疲労を生む「3つの栄養素不足」とは









私たちの体は、食べたものをエネルギー(ATP)に変換することで活動しています。このエネルギー産生のプロセスには、3つの栄養素がそれぞれ異なる役割を担っています。
- 鉄:全身に酸素を届ける「運搬役」
- ビタミンB群:食べたものをエネルギーに変換する「変換装置」
- マグネシウム:300以上の酵素反応を動かす「起動スイッチ」


この3つが揃ってはじめて、体は効率よくエネルギーを作ることができます。逆に言えば、どれか1つでも不足すると「食べているのに疲れる」という状態に陥りやすくなるのです。






隠れ貧血:ヘモグロビンが正常でも安心できない理由
「貧血じゃない」の落とし穴
健康診断で「ヘモグロビン値は正常です」と言われて安心していませんか?
実は、ヘモグロビンが正常範囲でも体内の鉄が不足している状態があります。これが「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症)」です。






フェリチン値が鍵を握る
フェリチンは体内の鉄の貯蔵量を示す指標です。日本鉄バイオサイエンス学会の診断指針では、次のように示されています。
- フェリチン 25ng/mL未満:鉄不足の可能性大
- フェリチン 50ng/mL未満:明らかな鉄欠乏


東京都「働く女性のウェルネス向上委員会」の調査によれば、日本人女性の約半数が低フェリチン状態にあるとされています。つまり「貧血ではないが鉄が足りていない」女性がとても多いのです。
鉄不足が引き起こす症状
鉄は赤血球のヘモグロビンに含まれ、全身に酸素を届ける重要な役割を担っています。鉄が不足すると、以下のような症状が現れます。
- 朝起きても疲れが取れない
- 午後になると極端に集中力が落ちる
- 肌荒れ・髪のパサつき・爪が割れやすい
- 動悸・息切れがしやすい
- 気分が落ち込みやすい(ドーパミン・セロトニンの合成に鉄が必要)






ビタミンB群:エネルギーを作る「工場の作業員」
8種類の「チームプレー」
ビタミンB群は、B1・B2・B3(ナイアシン)・B5(パントテン酸)・B6・B7(ビオチン)・B9(葉酸)・B12の8種類で構成されています。
これらは体内でエネルギーを作り出す際の補酵素として機能します。大塚製薬の研究資料によれば、三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)をATP(エネルギー)に変換する各段階で、ビタミンB群が不可欠な役割を果たしています。








特に重要なB1・B2・B6
8種類の中でも、エネルギー産生において特に中心的な役割を果たすのが以下の3つです。
ビタミンB1(チアミン)
糖質をエネルギーに変換する際の補酵素です。ご飯やパンなどの炭水化物を食べても、B1が不足しているとエネルギーに変換されにくくなります。不足すると倦怠感・食欲不振・集中力低下が起こります。
ビタミンB2(リボフラビン)
脂質の代謝に深く関わります。さらに最新の研究では、B2がFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)として電子伝達系で直接的にATP合成に関与していることが明らかになっています。
ビタミンB6(ピリドキシン)
タンパク質の代謝に関わるとともに、神経伝達物質(セロトニン・ドーパミン・GABA)の合成にも必要です。不足するとメンタル面にも影響が出ます。






ビタミンB群が不足しやすい人
- ストレスが多い人(B群はストレスホルモンの代謝で大量に消費される)
- アルコールをよく飲む人(B1の消耗が激しい)
- 加工食品中心の食生活(精製過程でB群が失われる)
- 妊娠・授乳中の女性(需要が増加する)
マグネシウム:300以上の体内反応を支える「縁の下の力持ち」
最も軽視されている重要ミネラル






マグネシウムは、体内で以下のような多岐にわたる役割を担っています。
- エネルギー産生:ATPを活性化する(ATPはMgと結合した状態で機能する)
- 筋肉の弛緩:カルシウムが収縮を促し、Mgが弛緩を促す
- 神経の鎮静:GABA(抑制性神経伝達物質)の機能をサポート
- 骨の形成:骨のミネラルの約60%を構成
- メラトニン合成:睡眠ホルモンの生成に関与


「カルシウム不足でイライラ」は本当?
「イライラするのはカルシウム不足」と聞いたことがあるかもしれません。しかし、近年の研究ではマグネシウム不足のほうがイライラに直結することが明らかになっています。
マグネシウムは抑制性の神経伝達物質であるGABAの機能をサポートしています。Mgが不足すると、GABAによるブレーキが効かなくなり、神経が過敏になりやすくなるのです。



マグネシウム不足の症状チェック
- 足がつる・こむら返りが頻繁に起きる
- 些細なことでイライラしてしまう
- 寝つきが悪い・眠りが浅い
- 慢性的な頭痛がある
- 目がピクピク痙攣する
- 便秘がちである






現代人はなぜMgが不足するのか
マグネシウムサプリメント市場は2025年の79億USDから2035年には174億USDへと急拡大する見込みです(CAGR8.2%)。これは世界的にMg不足が認識されている証拠です。
現代人がMg不足に陥りやすい理由は以下の通りです。
- 精製食品の増加:玄米→白米、全粒粉→白い小麦粉の精製過程でMgが大幅に減少
- ストレスによる消費:ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌時にMgが消費される
- カフェイン・アルコール:利尿作用でMgの排出が促進される
- 加工食品中の添加物:リン酸塩がMgの吸収を阻害する


ドベネックの桶 — 1つだけ補っても効果が出ない理由
「桶の水は最も低い板から漏れる」
ここまで3つの栄養素を個別に解説してきましたが、最も重要なポイントはバランスです。
19世紀のドイツの化学者リービッヒが提唱した「ドベネックの桶」理論をご存知でしょうか。
木の桶に水を入れたとき、水は最も低い板の高さまでしか溜まらないという考え方です。これを栄養素に当てはめると、どれだけ1つの栄養素を補っても、最も不足している栄養素の量に体の機能は制限されてしまうのです。











3栄養素の相互作用
鉄・ビタミンB群・マグネシウムは、単独で機能するだけでなく相互に影響し合っています。
- 鉄 × ビタミンC:ビタミンCが非ヘム鉄の吸収率を高める
- B群 × Mg:B6がMgの細胞内への取り込みを促進する
- 鉄 × B群:B12と葉酸(B9)が赤血球の正常な形成をサポート
- Mg × B群:Mgがビタミンの活性化を助ける








セルフチェック:あなたに足りない栄養素は?
以下のチェックリストで、あなたに不足している栄養素の傾向を確認してみましょう。
鉄不足チェック(3つ以上で要注意)
- □ 朝起きた瞬間からだるい
- □ 爪が割れやすい・スプーン状に反る
- □ 氷をガリガリ食べたくなる
- □ 顔色が悪い・唇の色が薄い
- □ 階段を上がると息切れする
- □ 抜け毛が増えた
- □ 月経量が多い
ビタミンB群不足チェック(3つ以上で要注意)
- □ 口内炎・口角炎ができやすい
- □ 肌荒れ・ニキビが治りにくい
- □ 食べているのにすぐ疲れる
- □ 二日酔いが残りやすくなった
- □ やる気が出ない・気分が落ち込みやすい
- □ 白髪が急に増えた
- □ 手足のしびれ・ピリピリ感
マグネシウム不足チェック(3つ以上で要注意)
- □ 足がつる・こむら返りが多い
- □ 些細なことでイライラする
- □ 寝つきが悪い・眠りが浅い
- □ 慢性的な頭痛がある
- □ 便秘がちである
- □ 目がピクピク痙攣する
- □ 甘いものが異常に食べたくなる








今日からできる「3栄養素」の整え方【食事編】
鉄を効率よく摂る食事の工夫
鉄には、肉や魚に含まれるヘム鉄(吸収率15〜35%)と、植物性食品に含まれる非ヘム鉄(吸収率2〜20%)があります。
鉄が豊富な食品
- レバー(豚レバーは100gあたり13mg)
- 赤身肉(牛もも肉)
- カツオ・マグロ
- 小松菜・ほうれん草
- 納豆・豆腐
吸収率を上げるコツ
- ビタミンCと一緒に摂る:レモン汁をかける、食後にキウイを食べるなど
- タンパク質と組み合わせる:動物性タンパク質が非ヘム鉄の吸収を助ける
- タンニン・フィチン酸を避ける:食事中のお茶・コーヒーは控える
ビタミンB群を効率よく摂る食事の工夫
ビタミンB群は水溶性のため、体内に貯蔵できません。毎日の食事で継続的に摂取することが必要です。
B群が豊富な食品
- 豚肉(B1が特に豊富)
- うなぎ・さば(B2・B12)
- 卵(B群をバランスよく含む)
- 玄米・雑穀(精白米の数倍のB群)
- バナナ(B6が豊富)
- 海苔・しじみ(B12)
効率的な摂取のコツ
- 8種類をチームで摂る:単独サプリより食品からバランスよく
- 調理の工夫:水溶性のため、煮汁ごと食べるスープや味噌汁がおすすめ
- 白米を雑穀に置き換える:手軽にB群の摂取量を増やせる
マグネシウムを効率よく摂る食事の工夫



Mgが豊富な食品(そばのひまごとまごはやさしい)
- そ:そば
- ば:バナナ
- の:海苔
- ひ:ひじき
- ま:豆類(大豆・納豆)
- ご:ごま
- と:豆腐
- ま:抹茶
- ご:ごぼう
- は:はまぐり
- や:野菜(ほうれん草)
- さ:魚
- し:しいたけ
- い:いちじく
意外な摂取方法
- 入浴でも摂れる:エプソムソルト(硫酸マグネシウム)は経皮吸収される
- にがりを活用:豆腐を作るにがり(塩化マグネシウム)を料理や飲み物に数滴加える








吸収率を上げるために知っておきたい組み合わせ
栄養素は「何を食べるか」だけでなく「どう組み合わせるか」で吸収率が大きく変わります。
良い組み合わせ
| 組み合わせ | 理由 |
|---|---|
| 鉄 + ビタミンC | 非ヘム鉄の吸収率が最大6倍に |
| B群 + タンパク質 | アミノ酸代謝でB6を効率的に活用 |
| Mg + ビタミンD | Mgがビタミンの活性化を補助 |
| 鉄 + 動物性タンパク質 | ミートファクター(MFP)が非ヘム鉄の吸収を促進 |
避けたい組み合わせ
| 組み合わせ | 理由 |
|---|---|
| 鉄 + タンニン(お茶・コーヒー) | タンニンが鉄と結合して吸収を阻害 |
| Mg + リン酸塩(加工食品) | リン酸がMg吸収を妨げる |
| 鉄 + カルシウム(同時大量摂取) | 吸収経路が競合する |
| B群 + アルコール | B1の消耗が激しくなる |








血液検査の読み方:フェリチン値に注目する






チェックすべき検査値
| 検査項目 | 基準値 | 理想値(分子栄養学の観点) |
|---|---|---|
| フェリチン | 5〜150ng/mL | 50〜100ng/mL |
| ヘモグロビン | 12〜16g/dL | 13〜14g/dL |
| MCV(平均赤血球容積) | 80〜100fL | 90〜95fL |
| 血清Mg | 1.8〜2.6mg/dL | 2.0〜2.5mg/dL |
特に重要なのがフェリチン値です。通常の健康診断では測定されないことが多いため、気になる方は医師にフェリチンの測定を依頼してみてください。



まとめ:「整える」は栄養素のバランスから






慢性疲労の原因は「気のせい」でも「年齢のせい」でもないかもしれません。
鉄・ビタミンB群・マグネシウムの3つの栄養素は、体がエネルギーを作り出す過程で三位一体の関係にあります。どれか1つでも不足すると、ドベネックの桶のように全体の機能が低下してしまいます。
今日からできる3つのステップ:
1. セルフチェックで自分の傾向を知る — どの栄養素が不足しやすいタイプか把握する
2. 食事で「バランスよく底上げ」 — 和食の基本を意識する(雑穀ご飯・味噌汁・魚・納豆)
3. 気になったらフェリチン値を測る — 医師に相談して血液検査を受ける


あなたの「なんとなく不調」が、栄養素を整えることで変わるかもしれません。まずは今日の食事から、少しずつ意識してみてください。
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